突然ですが、みなさんに質問です。
腰痛に悩まされ医療機関に受診したら
「大きな問題(直ぐに対処が必要な病態)はありませんね。レントゲンで骨の変形もあるし、骨の間隔が狭いので加齢が原因だと思います。とりあえず湿布と飲み薬を処方しますのでそれで様子を見てください」
と言われた経験のある方、いらっしゃいませんか?
実際、少なくないと思います。
「まぁでも、先生が加齢っていうならそうなんだろう」と、半分諦めの気持ちで薬や湿布で様子を見ても、その時は少し調子が良くなっても直ぐに症状が再燃したりして、「あぁ、やっぱり年だから仕方ないのかな」と治す気力すら失ってしまいますよね。
でもみなさん、ここで一度考えてみて頂きたいのです。
腰痛は加齢に伴ってみなさんに起こる、仕方のない症状なのでしょうか。
腰痛は高齢者の宿命なのでしょうか。
実はそうではないかもしれません。
ここでは、いくつかの論文などを紹介し、「腰痛は加齢が原因だから仕方ない」と諦めかけていた方を勇気付けられたらと思います。
そもそも腰痛は
米国での大規模な調査結果によれば、ほとんどの人が生涯に1度は腰痛を経験しており、国民の15~20%の人々が毎年腰痛を訴えている、というのが現状です。
米国の就業年齢層の50%が毎年腰部に由来する症状を認めています。
事実45歳以下の人々の就業不能の最も高い理由が腰痛である。1) とあるように腰痛は世界的にも罹患率の高い病態で、人間が普通に経験する痛みの一つと言えます。
加齢に伴う背骨の変形と腰痛の出現との関係は直結するのか?
先述した通り、腰痛により医療機関を受診したらレントゲンを撮影しその画像所見から「大きな問題はないけど、骨が変形しているからそれが原因だと思います。」と言われた方、結構みえると思います。
患者さんからも「骨の変形が原因だ、と言われた。」と、よく伺います。
確かに、アライメントといって骨の配列関係が良くないと、大きな力を必要とするときなどに力が出し難かったり、必要以上の物理的な負担が局所に掛かることでそれが痛みの原因になることはあると思いますが、「変形」そのもの=「痛みの原因」としてしまうと、痛みの原因を治すこと=変形を治すこと、ということになるので、変形が治らないと痛みも治らないというロジックになってしまいます。
変形していても痛みのない方や、変形したままでも痛みが寛解、消失する方がみえます。最近の研究でも、アライメントの加齢的な変化により起こったと考えられる自覚症状も、時間の経過で変化する、という事が明らかになっています。
そもそも骨・筋肉などの運動器の年代別標準値は?
加齢と運動器について、骨や椎間板、筋肉は加齢変化を呈しますが、それらの年代別の標準機能値は明らかになっているのでしょうか。
実は、その質問に対しては十分には答えられない、というのが現状です。
明確な返答は出来ないにしろ、年代によってその標準値が異なることは明白です。明確な返答ができないにも関わらず腰痛の原因を加齢的変化とし、70歳代の方に20歳代の機能を取り戻す、というような非科学的なことを考えていないか、患者さんのみならず、我々施術する側も今一度、自問する必要があると思います。
年代別の腰痛事情
腰痛を年代別にみるとどうでしょうか。
加齢とともに腰痛の頻度が増えるかというと、必ずしもそうではないようです。
一方ではレントゲン所見上、加齢とともに椎間板変性の所見を有する確率は増えていくそうで、椎間板変性などの加齢変化=腰痛の原因とするなら、加齢とともに椎間板の変性が増えるので腰痛も加齢とともに増えなくては辻褄が合いませんが、そうではないというこの結果からも加齢変化と腰痛の直接的な関係は薄そうに感じます。
次に、2003年に日本整形外科学会により行われた腰痛に関する全国調査2)によると、腰痛の有病率は20歳代から60歳代の間で、あまり変わりはありません。何が言いたいのかというと、非特異的腰痛(簡単に言うと麻痺や痺れ、排尿障害などの神経症状を伴わない腰痛)は壮年者や高齢者に限ったものではないということです。
加齢とともに増加傾向なのは、
治療を必要とする腰痛が起こった年代は高齢者に明らかに多い傾向があり、腰部脊柱管狭窄の頻度は年齢とともに高くなり、男性5.7%、女性5.8%、全体としても約6%が腰部脊柱管狭窄の症状を呈しているとしています。3)
健康状態と腰痛との関連
大谷らの疫学調査の報告4) によると、腰痛とメタボリックシンドロームとは関連があり、腰痛を有する集団ではQOL(Quality of Life:生活の質)が低下しています。また、腰部脊柱管狭窄に伴う症状を有する群は約12%で内訳は男性10.7%、女性12.9%となっています。腰痛有症率となると男性15.8%、女性17.6%とさらに高い値となり、腰痛と生活習慣病は深く関連していることがわかります。
まとめ
今回は、腰痛は高齢者特有の症状なのか?骨が変形しているから痛いのは仕方ないの?という問いかけ形式で進めてきました。
ここで私が言いたいのは、腰痛は必ずしも高齢者特有の症状ではなく、あらゆる年代にも存在し得る愁訴であるということです。もちろん腰痛にはレッドフラッグサインといって、軽視していてはいけないような病態が存在することが有るので、何かおかしいなと感じたら医療機関で精査してもらうことが大切です。
それを踏まえたうえで、医療機関で「高齢だから仕方ない」とか「加齢的な問題だ」と言われた方、もしかしたらその腰痛、加齢的な変化では説明できないものが原因かもしれません。ということです。
腰痛は生活習慣とも、辛い悲しいなどの精神的な状態とも強く関係します。
腰痛を「年だから」と諦める前に、一度生活習慣の見直しや、運動や趣味でリフレッシュするのも症状改善の一歩になるかもしれませんね。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました(^_-)-☆
参考
1) 菊池臣一 編:腰痛第2版.医学書院.2014
2) 福原俊一 ら:腰痛に関する全国調査.日本整形外科学会プロジェクト事業.2003
3) Shoji Yabuki et al : Prevalence of lumbar spinal stenosis, using the diagnostic support
tool, and correlated factors in Japan: a population-based study : J Orthop Sci . 2013
4) Otani Koji et al : Locomotor dysfunction and risk of cardiovascular disease, quality of life, and medical costs: design of the Locomotive Syndrome and Health Outcome in Aizu Cohort Study (LOHAS) and baseline characteristics of the study population : J Orthop Sci . 2012
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鍼灸師・理学療法士 唯内 喜史