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2026.09.07

【臨床考察】右鼠径部〜大腿内側の痛みについて、子宮筋腫と尿路結石を背景に考えた一症例

こんにちは。鍼灸Tadauchiの唯内喜史です。

今回は、日々の臨床の中で私自身が大きな学びを得た、少し印象的な症例について、備忘録を兼ねてご紹介します。

患者さんは、

「右の鼠径部(脚の付け根)から、大腿の内側、さらに膝に近いところまで強い痛みが走る」

という症状を訴えて来院されました。

一見すると、股関節や内転筋など、いわゆる「脚」の問題をまず考えたくなる症状です。

しかし、今回の症例では、患者さんが以前から抱えていた子宮筋腫・子宮腺筋症と、泌尿器科領域の尿路結石という複数の既往・病態が、症状の背景に関係している可能性が浮かび上がりました。

最終的な原因が画像検査などで確定されたわけではありません。

そのため本記事では、診断を断定するのではなく、臨床所見と既往歴、解剖学的な走行、そして既報の症例を照らし合わせて考えた「一つの仮説」としてお話しします。

1.一度落ち着いた痛みが、なぜ再び現れたのか?

まず、これまでの経過を時系列で整理します。

  • 令和7年1月(初診)
    右鼠径部〜大腿遠位内側部の痛みを主訴に来院。鍼灸施術後、症状は比較的速やかに落ち着き、その後しばらく良好な状態が続いていました。
  • 今年1月
    腎・尿管結石に対する手術を受けられました。
  • 2〜4月
    手術後の身体的・心理的ストレスなどもあり、月経が一時的に停止。
  • 5月
    軽い月経が再開。
  • 6月
    月経に伴って「お腹が猛烈に張る」という感覚が出現。
    それとほぼ同時に、以前経験していた右鼠径部〜大腿内側の激痛が再発しました。

ここで私が注目したのが、

「以前から存在していた痛みが、なぜこのタイミングで再発したのか?」

という点です。

患者さんには以前から子宮筋腫・子宮腺筋症の既往があり、さらに尿路結石についても完全に問題が解決したわけではなく、体内に残存結石があり、自然排石を待っている状態でした。

つまり、

婦人科領域と泌尿器科領域の両方に、今回の症状と関連し得る要素が存在していた

ということになります。

⸻

2.症状から考えた神経――「閉鎖神経」がキーワードに

今回の症状を解剖学的に考えるうえで、私が注目したのが閉鎖神経(obturator nerve)です。

閉鎖神経は主にL2〜L4の神経根から構成され、腰部から骨盤内へ入り、閉鎖孔を通って大腿内側へ向かいます。

主に大腿内転筋群の運動に関与し、感覚については大腿内側から膝内側付近に関係することがあります。

そのため、

鼠径部〜大腿内側〜膝周辺

という今回の症状分布を考える際には、閉鎖神経やその上流にある腰椎神経叢を鑑別に入れる意味があります。

また、閉鎖神経は大腰筋との位置関係も重要です。

大腰筋を含む腰部深層部と骨盤内の構造物は、互いに非常に近接しています。

【図1】骨盤内臓器と神経、筋肉の位置関係のイメージ

3.子宮筋腫によって神経が圧迫されることはあるのか?

ここで興味深いのが、実際に子宮筋腫による神経圧迫が報告されていることです。

2023年に報告された症例では、32歳女性が突然の右鼠径部痛と膝痛、歩行困難を呈し、検査の結果、大きな子宮筋腫が腰椎神経叢の枝を圧迫しており、その中には閉鎖神経も含まれていました。

さらに、その患者さんでは月経時に右大腿のしびれや痛み、膝折れが悪化するという特徴も報告されています。1)

また、1995年にも良性子宮平滑筋腫による腰仙骨神経叢障害の症例がNeurology誌に報告されています。2)

つまり、

「婦人科疾患が原因で、下肢痛や神経症状が出る」

ということ自体は、決して突飛な考えではありません。

今回の症例を考える際にも、この既報は非常に重要なヒントになりました。

4.今回考えた「2つの要因」

今回の症例では、大きく2つの要素が重なった可能性を考えました。

① 子宮・骨盤内の状態による神経への影響

患者さんには子宮筋腫・子宮腺筋症の既往があり、月経再開後には強い腹部の張りを自覚していました。

そのため、

月経周期に伴う骨盤内の状態の変化
↓
骨盤内圧・組織の緊張状態の変化
↓
もともと余裕の少なかった閉鎖神経周囲に負荷が加わる
↓
鼠径部〜大腿内側の症状が再燃

という可能性を考えました。

ただし、忘れてはいけないのは、

「月経によって子宮が一気に肥大し、閉鎖神経を直接圧迫した」とまでは、この症例だけから断定することはできない、

という点です。

実際にどの構造物がどの程度圧迫されているかを確認するには、画像検査などによる評価が必要です。

② 尿路結石を背景とした腰部・大腰筋周囲の緊張

もう一つ注目したのが、尿路結石の存在です。

尿管結石では、腰背部から鼠径部へ向かう強い関連痛が生じることが知られています。

また、尿路系の病変と大腰筋周辺の解剖学的な近接性から、大腰筋の筋緊張の変化が症状に関与する可能性も考えました。

さらに、尿路結石に関連した非常に珍しい症例では、結石と大腰筋の間で閉鎖神経が圧迫され、大腿内側から膝方向に痛みが放散したと考察された報告もあります。3)

ただし、

「尿路結石がある=必ず大腰筋がスパズムを起こす」

という単純な関係が証明されているわけではありません。

今回の症例でも、あくまで結石による内臓由来の刺激と腰部深層筋の緊張が、症状を増幅する一因になっていた可能性として捉えています。

5.今回の症例から考えた「複合的な負荷」

以上を踏まえると、今回の症状は一つの原因だけではなく、

① 骨盤内の婦人科的要因
+
② 尿路結石に関連する内臓由来の刺激
+
③ 大腰筋を主とした腰部深層筋の過緊張
+
④ 腰部神経叢・閉鎖神経周辺へのメカニカルストレス

という複数の要素が重なっていた可能性があります。

イメージとしては、

「神経そのものに問題があった」というより、神経が通る狭い空間に複数方向から負荷が加わり、症状が表面化した

と考えると理解しやすいかもしれません。

【図2】閉鎖神経へのメカニカルストレスの仮説模式図

ただし、これはあくまで今回の臨床経過から組み立てた仮説です。

画像診断などで「子宮と大腰筋によって閉鎖神経が挟まれていた」と確認されたわけではありません。

そのため、この記事では「複合絞扼」と断定するよりも、「複合的な要因による神経ストレスの増加」と表現するのが適切だと考えています。

6.鍼灸師としての盲点――「痛い場所」だけを見ない

今回、私自身が改めて感じたのは、

「患者さんが痛いと言っている場所だけを見ていてはいけない」

ということです。

鼠径部や大腿内側が痛ければ、股関節を中心とした痛みの当該部位に原因を求めるのは当然ですし、無視することはできません。

しかし、

「なぜこの患者さんに、この症状が出たのか?」

というところまで掘り下げると、婦人科疾患や泌尿器科疾患など、痛みの訴えの当該部位とは離れたところにヒントが隠れている場合があります。

今回も、腰部・骨盤周囲の筋緊張に対する施術の後、腰痛については楽になったとのことでした。

この変化については、腰部深層筋などの筋緊張が症状の一部に関与していた可能性も考えられます。

一方で、これをもって「結石による大腰筋スパズムが原因だった」と断定することはできません。

ここは臨床家として、施術による変化と病態の確定診断を混同しないことが大切だと考えています。

7.鍼灸でできること、できないこと

もちろん、鍼灸によって子宮筋腫そのものを小さくしたり、尿路結石を直接除去したりすることはできません。

今回のように骨盤内に器質的な疾患が存在する可能性がある場合、まず重要なのは、その病態を見落とさないことです。

そのうえで、筋緊張や疼痛など、鍼灸の適応となり得る部分に対して施術を行う。

私はこのような「原因疾患への医療的評価」と「症状に対する鍼灸施術」を分けて考えることが重要だと思っています。

特に、

  • 痛みが急激に強くなった
  • 月経周期と明らかに連動して悪化する
  • 歩行障害や筋力低下がある
  • しびれが進行している
  • 排尿・排便に異常がある
  • 婦人科疾患や尿路疾患の既往がある

といった場合には、筋肉や関節だけの問題と決めつけず、必要に応じて婦人科・泌尿器科・整形外科・神経内科などへの受診を勧めることが重要であると考えています。

今回の症例についても、症状が持続・増悪する場合には、婦人科での画像評価などを含めた再評価が必要になると考えています

8.今回の症例から得たこと

今回の症例で私が最も強く感じたのは、

「身体は、臓器別には痛んでくれない」
「原因は必ずしも一つとは限らない」

ということです。

患者さんにとっては、

「子宮の問題」
「尿路の問題」
「神経の問題」
「筋肉の問題」

という区別はなく、必ずしもどれか一つが原因、というわけでもありません。

すべてが一つの身体の中で起こっています。

だからこそ施術者には、痛みの場所だけを見るのではなく、

既往歴
→ 症状の時間経過
→ 月経周期との関係
→ 内臓症状
→ 神経の走行
→ 筋肉・関節の状態

を一つの「立体的な地図」として捉える視点が必要なのだと思います。

今回の症例が、同じような症状で悩んでいる方や、日々の臨床で「この痛みはいったいどこから来ているのだろう?」と考えている施術者の方にとって、何か一つでもヒントになれば幸いです。

※本記事は一症例についての臨床的考察であり、特定の疾患との因果関係を確定するものではありません。また、患者さん個人が特定されないよう、記載内容の一部を変更しています。

参考文献

1)Vyas PS, Kim SW, Castellano JM, Bal JK, Plewniak KM. Uterine Fibroid-Induced Compressive Neuropathy of Lumbar Plexus and Obturator Nerve. CRSLS. 2023;10(4):e2023.00034. DOI: 10.4293/CRSLS.2023.00034.

2)Felice KJ, Donaldson JO. Lumbosacral plexopathy due to benign uterine leiomyoma. Neurology. 1995;45(10):1943-1944. DOI: 10.1212/WNL.45.10.1943.

3)Medial thigh pain: An unusual presentation of giant calculi in sigmoid neobladder. Case report.

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