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2025.05.22

【鍼灸師監修】炎症に電気鍼!?エビデンスに基づく電気鍼の抗炎症作用と鎮痛効果のメカニズム

電気鍼と経絡人形

こんにちは。日々臨床に携わる中で、患者さんからよくこんな質問をされます。

「鍼って、炎症の痛みにも効くんですか?」
「鍼が効く仕組みはどうなっているの?」
「電気を流すことでどんな効果があるの?」

確かに、鍼に興味を持った方から同じような質問をいただきます!
鍼が体に良いって聞くけど、じゃあ実際にはどんな風に体に良いのか、みなさん興味があるようです。

今回は、そんな疑問にお応えすべく、電気鍼(electroacupuncture:EA)が炎症性疼痛にどう作用するのかを解説した、レビュー論文をもとに、鍼の鎮痛メカニズムを紹介します。
この記事を読むことで、電気鍼が単なる気休めではなく、科学的な根拠に基づいた治療法であることをご理解いただけると幸いです。

炎症性疼痛とは?

炎症性疼痛とは、関節炎や筋肉の炎症、手術後などで起こる体の防御反応に伴う痛みのことです。

私たちの体は、損傷を受けると、それを修復しようとする働きが起こります。
この過程で、患部は赤く腫れたり、熱を持ったりすることがあります。
この状態こそがまさに炎症であり、その周囲に感じる鋭い痛みやズキズキとした不快感が炎症性疼痛です。

炎症は、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジンといった化学物質の放出を引き起こし、これらが痛覚神経を刺激することで痛みが生じます。

世界的に注目される鍼治療

炎症性疼痛の治療には、一般的に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、炎症を抑え、痛みを軽減する効果がありますが、
長期間の使用においては胃腸障害、腎機能障害、喘息発作といった副作用のリスクも懸念され、
これらの副作用はQOL(生活の質)を大きく低下させる要因となりかねません。

このような背景から、副作用が比較的少なく長期的な効果が期待できる補完療法として、鍼治療が世界的に注目を集めています。
世界保健機関(WHO)も、鍼治療が特定の疾患や症状に対して有効であると認めており、
その科学的なメカニズムの解明が進んでいます。

副作用の少ない鍼治療、世界でも注目されてるんですね!

電気鍼って何?

電気鍼とは、
一般的な鍼治療と同様に、体表の特定の部位(腧穴、いわゆるツボ)に鍼を刺入した後、
その鍼に低周波の電気刺激を加える治療法です。

手技による鍼刺激に加えて電気刺激を用いることで、
痛みの閾値(痛みを感じる最小の刺激量)をより効果的にコントロールし、
筋緊張の緩和を促すとされています。

一般的な「手技だけの鍼」と比較して、
電気鍼はより強力かつ安定した鎮痛効果が得られる可能性が示唆されています。
電気刺激の周波数や強度、波形を調整することで、
治療効果をより細かくコントロールできる点も電気鍼の大きな特徴です。

電気鍼は特に、痛みの緩和に期待できるんです!

電気鍼の効果は「周波数と場所」で変わる!

電気鍼の効果は、
加えられる電気刺激の周波数と、鍼を刺す部位の選択によって、
その作用メカニズムが異なることが近年の研究で明らかになってきました。

周波数はHz(ヘルツ)という単位で表されますが、
2Hz=1秒間に2回の電気刺激100Hz=1秒間に100回の電気刺激という認識で大丈夫です。

周波数を変えると作用や効果も変わってくるって面白いですね!


  • 低い周波数(2Hz程度)

    この周波数帯の電気刺激は、脳内のβ-エンドルフィンをはじめとする内因性オピオイドの分泌を促進することが示されています。
    エンドルフィンは、体内で生成されるモルヒネ様物質であり、痛みを抑制する作用があります。

  • 高い周波数(100Hz程度)

    高い周波数の電気刺激は、脊髄におけるゲートコントロール理論に基づいた痛みの抑制や、
    ダイノルフィンという別の種類の鎮痛物質の誘導に関与すると考えられています。

  • 交互周波数(2/100Hzなど

    低い周波数と高い周波数を組み合わせた刺激パターンを用いることで、上記の両方の鎮痛メカニズムを同時に引き出すことが期待されています。

さらに、どのツボに鍼を刺し、電気刺激を加えるかによって、
その効果が脊髄や脳のどの部位にどのように伝わるかが変わってきます。

これは、ツボが単なる点ではなく、
特定の筋肉や神経、血管、リンパ管の走行と関連しており、
それらを介して全身に影響を与えるためと考えられます。

したがって、症状や痛みの性質に合わせて、適切な経穴の選定と周波数設計が、
電気鍼治療の効果を最大化する上で非常に重要な要素となります。

どのツボを選び、どのような周波数で電気刺激を加えるのかが
体に与える影響、つまり治療効果が変ってくるのです!

鍼灸師の腕の見せ所です。

【末梢での作用】身体の「炎症源」に直接作用!

電気鍼は、炎症が起きている部位、つまり痛みの源に直接働きかけ、
様々なメカニズムを通じて炎症を鎮静化し、痛みを緩和することが示唆されています。

1. 免疫細胞との連携:炎症を鎮めるサイトカインの増加

鍼刺激、特に電気鍼による刺激は、炎症部位に存在するマクロファージやT細胞といった免疫細胞の活動を変化させることが報告されています。

具体的には、IL-10(インターロイキン-10)やTGF-β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)といった抗炎症性サイトカインの産生を促進し、炎症反応を鎮める方向に体のバランスをシフトさせます。

【注】サイトカインとは?
サイトカインは、細胞から分泌されるタンパク質で、細胞同士が情報を伝達するための「体内メッセンジャー」として機能します。炎症を引き起こすタイプのサイトカインと、炎症を抑制するタイプのサイトカインが存在し、これらのバランスが炎症の程度を左右します。

2. 痛みセンサー(TRPV1、P2X3)の沈静化:痛みの伝達をブロック

TRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid type 1)は、熱刺激やカプサイシンなどの刺激によって活性化されるイオンチャネルであり、「痛い!」という感覚を引き起こすセンサーの一つです。
炎症が起こると、このTRPV1が過敏になり、通常では痛みを感じないような弱い刺激に対しても痛みを感じてしまうことがあります(痛覚過敏)。
電気鍼は、このTRPV1や、同様に痛みの伝達に関わるP2X3受容体といったイオンチャネルの活性を抑制することで、痛みの信号が神経を伝わるのをブロックする効果が期待されています。

炎症によって過敏になったセンサーを落ち着かせ、痛み信号が伝わるのをブロックするのです。

3. アデノシンの抗炎症パワー:自然な鎮痛作用

鍼刺激が加わると、細胞のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)が分解され、アデノシンという物質が生成されます。

このアデノシンが、細胞膜上にあるアデノシンA1受容体と結合することで、
痛みの神経回路を静かに鎮める作用を発揮することが研究で示されています。

アデノシンは、血管拡張作用や免疫細胞の活動抑制作用も持つため、多角的に炎症と痛みにアプローチすると考えられています。

4. CB2受容体による炎症制御:炎症性因子の抑制

CB2(カンナビノイド受容体タイプ2)は、主に免疫細胞に存在する受容体です。内因性カンナビノイドや、植物由来のカンナビノイド(CBDなど)が結合することで、免疫細胞の活動を調節し、炎症を抑制する効果を発揮します。

電気鍼刺激が、このCB2受容体を活性化し、炎症を引き起こす重要な因子である「NLRP3インフラマソーム」の活性を抑制することが示唆されています。NLRP3インフラマソームは、炎症性サイトカインであるIL-1βやIL-18の産生を促進するため、その活動を抑えることは炎症の鎮静化に繋がります。

5. 内因性オピオイドによる自然な鎮痛:体本来の治癒力を引き出す

電気鍼治療は、私たちの体内で自然に生成されるモルヒネ様物質、すなわち内因性オピオイド(β-エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィンなど)の分泌を促進することが知られています。

これらの内因性オピオイドは、脳や脊髄に存在するオピオイド受容体に結合することで、痛みの信号が脳に伝わるのを抑制し、鎮痛効果を発揮します。

体が本来持つ、痛みを抑える力を引き出すという点で電気鍼は非常に自然な治療法と言えるでしょう。

【中枢での作用】脳と脊髄の「痛み記憶」に働きかける!

慢性的な炎症性疼痛は、末梢の炎症だけでなく、
脳や脊髄といった中枢神経系の変化、いわゆる「痛み記憶」の形成が関与していることが知られています。

電気鍼は、このような中枢性の痛みのメカニズムにも働きかける可能性が示唆されています。

脳や脊髄が痛みの情報を記憶して、普通なら痛みとして認識されないような小さな刺激でも、痛みと認識してしまうような中枢性の痛みにも、電気鍼の効果が期待できます。

1. グルタミン酸受容体の抑制:痛みの過敏反応を鎮める

グルタミン酸は、中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質です。
慢性的な痛みがあると、グルタミン酸が過剰に放出され、AMPA受容体やNMDA受容体といったグルタミン酸受容体が過剰に活性化されることで、痛みの信号が増幅され、より強く痛みを感じやすくなる(中枢感作)と考えられています。

電気鍼は、これらの受容体の過剰な活性を抑制することで、痛みの「過反応」を落ち着かせる効果が期待されています。

慢性痛にも電気鍼は効果が期待できるんですね!

2. ミクログリアの暴走を止める:神経炎症の抑制

ミクログリアは、脳や脊髄に存在する免疫細胞であり、中枢神経系の炎症反応において重要な役割を果たします。
慢性的な痛みや神経損傷があると、ミクログリアが活性化し、炎症性サイトカインや神経毒性物質を放出して、痛みをさらに増幅させることがあります。

電気鍼は、この活性化したミクログリアの暴走を制御し、神経炎症を鎮静化することで、中枢性の痛みを緩和する可能性が示唆されています。

3. シグナル伝達のブレーキをかける:痛みの悪循環を断つ

細胞内には、PKA(プロテインキナーゼA)、MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)、NF-κB(核内因子κB)など、様々なシグナル伝達経路が存在し、痛みの慢性化に関与しています。

これらの経路は、炎症性物質の産生や神経の過敏性を高める働きを持っています。

電気鍼は、これらの細胞内スイッチをオフにすることで、痛みのシグナルが連鎖的に増幅する悪循環を根元から断ち切る効果が期待されています。

4. 抑制性ニューロン(GABA)の再活性:痛みを抑える力を回復

GABA(γ-アミノ酪酸)は、中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質であり、痛みの信号を抑制する「脳のブレーキ役」として機能します。
慢性的な痛みがあると、このGABAニューロンの機能が低下し、中枢性の痛み過敏状態(中枢感作)が引き起こされることがあります。

電気鍼は、GABAニューロンの働きを回復させ、GABAの放出を促進することで、中枢性の痛みを抑制する効果が期待されています。

電気鍼はスイッチをオフにしたり、ブレーキをかけたり、
痛みの伝達をブロックする効果も期待できます。

結論:鍼は「炎症の根本」にアプローチする治療法

電気鍼の効果は、単なる一時的な「その場しのぎ」の鎮痛効果だけではありません。

末梢の炎症部位における免疫細胞の調節、痛みセンサーの沈静化、抗炎症物質の産生促進といった直接的な作用に加え、中枢神経系における痛みの過敏状態を改善するなど、多岐にわたるメカニズムを通じて、炎症性疼痛の根本原因にアプローチする治療法であると言えます。

電気鍼の効果に関する研究は、分子レベルでそのメカニズムが解明されつつありますが、今後のさらなる発展が期待されています。

今回の解説が、電気鍼に対する理解を深め、日々の臨床に役立てる一助となれば幸いです。

参考文献:“Mechanisms of acupuncture–electroacupuncture on inflammatory pain: A review”Journal of Inflammation Research(2023)

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